奇妙な手紙、奇妙な旅路。(3)


「うん。モーターヘッドみたいだけど、大分違う形の。でも手をこうやって上げてね。」とマントに隠れた右手を夜空に向かって突き上げてマスターは笑ってこう言った。「とても格好良い像だったよ!暫く見入ってしまったよ。」
「…どうしてロボットがそこに祀られているんですか?」
私は一体どう尋ねて良いのか判らなくなってしまっていたけれども、何かを聞かずにはいられなかった。
「判らないけど、伝説でもあったのかな?お金やお菓子が供えられていたから僕もそうして、願ってきたよ。…ジュノーンがあなたみたいになりますようにって。」
「そうしたら制服のひとが近くにいたから、思い切って尋ねてみたんだ。ここは何処ですか?って。」
「…何処だったんですか?」
あらゆる場所を想定してもマスターの行かれた所がまるで思いつかず、私はその答えを待った。
「カミイグサ、って言ってたかな…ウリクル、そこ知っている?」
「…知りません…」
私はこの時、一体どんな顔をしていたのだろう…
しかし、話をしているマスターの表情は、からかい等ではなく真剣で、一切嘘偽りはなさそうだった。それは確かだった。

「…やっぱりね。僕も後で調べたんだけどそんな地名ないしロボットの事も分からないし。だから笑ってくれたって良いけど、でも僕には本当にあった事なんだよ。おかしいだろう?誰に言ったところで判ってもらえそうもないから、内緒にしてほしいんだ。…一体なんなのだろうね。」
「マスターは、どうやって帰ってこられたのですか?」
「…ウリクルは、信じてくれるのかい?」
私にも分からないが、とにかく聞いてみない事には理解できないだろう。それは口には出さなかったけれども、兎に角マスターの安心のために頷いた。
「聞いたことのない所だったからとりあえずスタート地点に戻るのが賢明だと考えて、来た方面とは逆の列車に乗ろうかと思ったんだよ。…でもこれが実際にはとても遅くてね。自分の足の方がよっぽど速そうだったから、荒い砂利道を線に沿って走って帰ったよ。」
「途中で2本くらい列車を抜いたよ。多分中の人達は見えてないと思うけど…」
わたしは思わず息を飲んでしまった。どうしてそんな無茶を・・・!本当なの?
「…呆れました。危ないじゃないですか!」
「そうかな。一定速度だったみたいだしこちらの方が列車よりずっと速かったけど…」

何というおかしな旅路だったのだろう。ひょっとしたら大怪我していたかもしれない不安とも背中合わせで、私は笑いたくても笑えなかったけれども、だけどもマスターが仰っていることは本当にあったことの様な、次第にそんな気がしてきてしまったのだった。
「突き当たった所があの煉瓦色の建物だったから安心して脱出して、また凄い人の流れに沿って歩いていたら、…何時の間にか中央広場に戻っていたよ。」
「今日の手紙はその途中で買ったんだ。…ごめん。随分子供っぽい感じで、君らしくないよね。折角のウリクルの願いなのに、そんなのしかなくて…」
気がついたら、目を逸らしていたのは、マスターの方。
本当かどうかは私には判断できないけども、何だか全てがおとぎ話のような、そんな気分になってしまった私は思わず微笑ましい気分になり、マントの中にある右手を探し当てて自分の両手で挟み込んでみた。
「いいえ。マスターのお気持ちが…わたしにお話下さった事と、ジュノーンへのお心遣いも含めて、私はとても嬉しいです。」
マスターにはこれが意外な反応だったのだろうか。安堵のため息をひとつすると、晴れやかな笑顔を私に向けて下さった。
「良かった、思い切って君に言ってみて。こんなこと誰に話しても、手紙にしたためても信じてくれないよね…」

マスターは若干の勘違いをされているかも知れないけど…でもそれでも、それでマスターが気分が楽になったのだったら、わたしには最上の喜び。何も記されていない奇妙な柄の便箋だって宝物だ。
え?その後どうなったかって??
…それは私からはお答えできません。読んで下さった貴方の、ご想像にお任せいたします!

「ーそうそう、ディグを近くに置いてきたんだ。今からそのカミイグサに行ってみないかい?」
「えっ!?い、今からですか!?」
「行けるかどうか分からないけど…、君にもあのロボット、見て欲しいんだよ。」

…果たして、わたし達は、辿り着けるんでしょうか…。

※pixiv版(同じ内容です)の表紙絵として使った絵です。これも2hルールで描きましたが(実際はちょっとオーバー。)あんまり挿絵っぽくないのでこちらに。ウリクル目線で物語を書くのがはじめてだったので(コーラスの方は”降り積もる祝福””夜啼きうぐいすの声”がありますが)ファティマっぽい硬さを感じられるようにするのに難儀しました。彼女が語るので、最後がああなっちゃったのは許してね。絶対喋らない筈・・・
書き忘れていた、この曲のBGMはシベリウスの2番です。ちょっと大げさですが^^;冬の一日にはやさしく寄り添ってくれると思います。

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