ささやかな最大権力(8)


陽が時間を追って少しずつ傾いていく。
動いていく雲の色も次第に黄味を帯びていく。
時間は迫り来る。分かっていても二人は話を止められずにいたのだった。
…コーラスの核心に辿り着かないまま。

「さっき昼間にこんな話をするのって久しぶりだって、君も言っていたよね。・・・確かにこんなにのんびりしたのはいつだったかという感じだよね。」
「私、昔のことを思い出していました。」
「でもこんなことはしなかったよ。」と膝上のコーラスは手を伸ばして、ウリクルの顎に触れた。
「もう!でも確かにそうですね。」不貞腐れつつ、彼の言葉には同意しするしかなかったのだった。

「本当はね、順序立てたはずなのに、君を呼ぼうかと思った時点で悩んだんだよ。やっぱり溜まっているだろう書類でもこなそうかと。あるいは本当に寝てしまっても良いかな、と思ったくらい。」
「えっ」
それは意外な告白だった。
「君がこの時間なら大抵仕事をしているのは僕だって重々承知しているよ。お邪魔かな、位のことは考えるさ。それに周りにだって迷惑をかけるだろうし。」
ウリクルは黙ってコーラスの話の続きを待った。
「最中は袂にでも隠してさ、夜食にでもすれば良いか。と思ったりもしたり。」
「─また随分と重たい、夜のおやつですね。」
今度は本気なのか冗談なのか分からない反応を見せ、いつものウリクルらしいな、と苦笑いを隠しつつ話を続けた。
「でも僕がこらえ性がなかった、という事なのかな。外を見ていたらあまりに空が高くて、良い天気だったから、結局君を呼んでしまった。こういうの、職権乱用?」
「職権って・・・」
返事に困っている所に、さらにウリクルに追い討ちをかけるような一言を付け加えた。
「だけど・・・はやく会いたかったんだよ。この空の下でね。」
「・・・」
黙り込んでしまったウリクルは、空を見上げようとして表情を隠そうとするのだった。

「そしてね、ウリクル。」
彼女はもう一度眼下のコーラスを見つめ返した。その頬はこれから繰り広げられる夕日みたいに真っ赤だったけれど、彼はあえて話を続けた。
「さっきの嘘はちょっと見え透いていたものかも知れない、けど。」
「君は信じたくないかも知れないけど、僕はある意味嘘のかたまりみたいなモノなんだよ。」
ウリクルは驚いて、というよりも信じられない形相で眼を見開き、足元のコーラスを見つめた。
「僕は変わってしまったのかな。」
「そんな、一つついた嘘だけで、そんな風に言うだなんて・・・」

「僕が昔と変わっていないように見える?」
ウリクルは口元を締めつつ、コクリと頷いた。
「・・・君が知っている僕は、僕だけど、普段の僕じゃないよ。」
「えっ、今のマスターは、作っているって言うんですか?」
彼女が真面目な顔して動揺しているのを、今度は不可思議に見つめ返すしかなかった。

「・・・ウリクルが分からなかっただなんて。いや今の話じゃないよ。だってさ、いつもは腹が立つことを言われても笑っていなきゃいけないし、変な質問にも核心を避けつつにこやかに答えなきゃならないし。核心を避けるのは・・・王妃に対してもそうかな。」

ウリクルは最後の一言で、コーラスの話す”嘘つきのかたまり”をようやく理解したのだった。
彼はいつだって、何かに耐えて、そのための逃げ道として笑顔という名の嘘をついているのだという事を。

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