ささやかな最大権力(7)

「・・・ごめん、ウリクル、トイレに行きたいの?落ち着かないんだけど」
─冷静でいられるわけがないだろう!
誰かがコーラスと自分の膝枕を見ていやしないだろうか、眼だけでなく首も左右、後ろも振り返りながらどうしようもない事態に困惑と、むず痒いというか恥ずかしいというか・・・とにかく頭に血が上っているような状態で、コーラスの頭を自分の腿に乗せていた。

「あ、あの。さっきから思うのですが・・・こんな事して誰かがやって来たら・・・こんなの見られたら・・・」
下をうつむいたらうつむいたで、今度はコーラスの疑問符のついた表情と鉢合わせしてしまう。
顔が真っ赤になったような気がして、やり場のない瞳をきつく閉じたのだった。

しかし暗闇の中で彼女が聞いた言葉は、思いも寄らぬものだった。
そして何故か、血の気が引くような思いがして、コーラスの話を聴き終えぬうちに、曇った視線を目の前のマスターに向けたのだった。
彼はウリクルに、平然とこう語った。
「多分だけど、誰も来ないよ。」
「・・・頭が痛いから暫く一人で休ませてくれと、一緒に出かけた者には、話してある。」

「・・・嘘をついたんですか、マスター。」
ウリクルの声が暗い響きを含んでいる事に気がつき、今度はコーラスの方が、目を逸らしてしまうのだった。


一度はウリクルに背を向けて、黙り込んでしまったコーラスだったけれども、彼の沈黙はさほど長くは続かずに、彼女の白い脚の上で再び向き合い、口を開くのだった。
その表情は、ばつの悪そうな、小言を受けて何か訴えそうな少年のようではあったけれど。
「いけなかったかな。これでも順序立てたつもりだったのだけど。」
「・・・嘘はすぐばれるものですよ。マスター、それに。」
「それに?」
ウリクルは続けるべきか少し悩み、しかし言葉を続けた。
「マスターらしくないというか、マスターがすべきではないというか・・・して欲しくなかったです。」
曖昧な言葉から無理やり結論を言い切ったあと、視線をずらし、小さなため息をついた。
コーラスは両腕を組んで彼女の言葉を聞いていた。決して怒っていたわけではなかった。─しかし彼女は肝心な事を忘れている、ともその時確かに感じていた。
ウリクルはきっと、自分が素晴らしい君主たるために、そんな事をすべきでないとも言いたいのだろう。彼女がそう思うのも良く分かる。
だけどね、ウリクル─

「一つ言っておきたい事があるんだ。」
アメジストの瞳が、きっと真っ直ぐな瞳が僕を見つめている。
コーラスは組んでいた腕を離して、着物の裾近くに気配を感じるウリクルの手を咄嗟に掴んだ。
その小さな手は彼女の白い手袋越しからも震えているような気がして、自分自身にも緊張が走ったような気がした。
ウリクルを戸惑わせてはならない、彼が直に告げようとした言葉は、その想いから急速に回り道をしだしたのだった。




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