~へっぽこからのお知らせ~

◯配布物Fughetta.シリーズ3冊について。バックナンバーに関してはお申込みを締め切らせていただきました。今迄お申し込み頂いた皆様どうもありがとうございました。
最新号3に限り、年末まで郵送も受け付けます。お問い合わせフォームにてご住所、お名前、お誕生日(要年齢確認のため)お知らせくだささい。
※尚配布物に記載したコラムについてはブログ公開予定はございませんのでよろしくお願いいたします。

ささやかな最大権力(5)


ハミルと「先輩」が切迫していた頃、彼らの主君であるコーラスと、コーラスのファティマであるウリクルが、広大な自室の濡れ縁で─この場所もまた、徒競走が出来そうなほど広いのだけども─ふたり並んでたたずんでいた。
どこまでも高く深い群青色の青空に、柔らかな雲で出来た牧羊の群れが太陽の一部を隠しつつ通り過ぎていくのを、言葉もなく眺めていた。
それは二人とも見慣れたいつもの空の色と光線のはずなのに、どこか思いがけない懐かしさを感じながら。

「そういえば、昼間にこうやってマスターにお会いしてお話しするなんて事、暫くありませんでしたね。」ウリクルが思いついたことをそのまま口にした。
「そうだね。」隣のコーラスがそう頷くと、彼は濡れ縁の端に座り込んで、ウリクルにこちらに来るように促すのだった。
ウリクルがそうしたいのは山々だった。しかし、つい考えてしまうのは、もしここに誰かがやってきてしまったら、という恐れとその対処法についてばかりだった。
いつもならコーラスがここに来れば御用聞きの者が現れたりするのだけど、今はそれすらもなく辺りはシン、と静まり返っていた。恐らく彼が席を外すように呼びかけたのだろう。
入り口はきっとハミルが多少時間稼ぎをしてくれる筈だ。そうしたらその人物が部屋を横切っている間に、自分はあの左側の生垣から脱出すれば良いのだろうか、それとも軒下に隠れて息を潜めているべきだろうか・・・
「ウリクル?」
つい俯きがちになりがちな顔を、声のするほうへと向けると、心配そうにする苔色の瞳が、ほんの少しだけ不審の響きを含めながら彼女に声をかけた。
「今日の君はちょっと変だよ、一体どうしたの?」
彼の視線が若干鋭くなった事に気がついたのか、ウリクルは慌ててこう切り返すのだった。
「はい、只今。マスター。」
そして前に進み出て持っていたお盆をコーラスの近くに置くと、自分は彼の半歩後ろについて、そこに正座をしたのだった。

彼女が自分と並んで座らなかったのを、遠慮しているのかそうするのが彼女らしいのか、あるいは何処か避けられているのか、どれかもわからずに大いに戸惑いを感じつつ、コーラスはウリクルの手からお茶を受け取るのだった。
しかし声に出しては努めて明るく振舞って、彼女のいる方を振り返ってはこう話しかけた。
「その最中、栗餡とぎゅうひの入った粒餡とがあるはずなんだ。どれか半分こにしてみない?」

ウリクルは持ってきた最中─最中にしてはいやに大きくどっしりとした重量感のある、その立方体の包みのひとつを開けて、ちょっとだけ力を入れて半分に割ってみた。
それは栗餡だったらしく、大きな栗の渋皮煮が一方だけに偏った状態で、二つに分かれてしまうのだった。
ウリクルは栗のある方をコーラスに手渡そうとすると、彼にその行く手をさえぎられてしまい、驚いて彼の瞳を見つめた。
「それじゃ不公平じゃないか。その渋皮煮が美味しいのに。」
「でも・・・マスター、このお菓子お好きなんでしょう?」
「じゃあ、君が半分かじって僕におくれよ。僕はそれでいい。」

・・・なんだかそうしないと窘められそうな雰囲気になりそうだったので、ウリクルは彼の目の前で、最中の栗に口をつけて、半分になるように割った。
そして栗も分かれた状態の最中を、ようやく彼に受け取ってもらえたのだった。
「そうそうこれこれ、美味しかったんだよね、中の白餡にも栗が入っているんだよ。」
コーラスはにこやかにこの最中の説明をしつつ、もう栗の部分まで食べてしまったようだけど、ウリクルは恥ずかしいのか・・・それとも何処か喜んでいる自分がいるのか、まだ口の中の渋皮煮を飲み込めずにいたのだった。



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