ささやかな最大権力(4)


・・・その頃、「誰も部屋に入れないように」とのコーラスからの命を忠実に守っているハミルの元に、ひしゃげた紙袋を掲げて急ぎ足でこちらへ向かってくる人影が彼の前に現れたのだった。
「あれ、センパイじゃないですか。」
ハミルは形だけの敬礼をやって来た先輩に対して行った後、陛下に何か御用ですか、ととりあえずいつもと同じように彼に尋ねてみる事にした。
ただハミルはそれすらも、若干気乗りがしなかった。
・・・実はこのセンパイ、人となりは決して悪くはないのだが、1の質問をしたら100の答えが帰ってくるような、お喋りな人物だったからだ。

「なんだ、ハミルだったのか。いや実はさ、今朝陛下にどこそこの最中が美味しいから、トリオの分も合わせてまとめて買ってきてくれないか、ってわざわざ俺の所に電信があって、それで店の名前を聞いて行って来たんだよ~というか、陛下、店名位しかご存じなかったみたいでさ。」
「ところがその店えらい遠いわ、小さな山の中の店でさ。・・・一体陛下どこでここを知ったのかい、と思うような辺鄙な所で。行くだけでも3時間!おまけにそこの爺さんが耳遠いし、最中は1日25個ずつしか作っていない、って言われるしさ。しょうがないからあるだけ買ったけど、2種あっても38個しか今ここにないんだよ。さっきやっとこさ帰ってきて、陛下の分だけ2個ご所望されていたから、それだけ預けてきたけど、この残りどうするのよ。36個じゃ騎士団には全然足りないしさ。」

「~という訳で、陛下にこれをどうすべきか尋ねに来たって事だ。」
・・・先輩のマシンガントークは相変わらず舌好調だとハミルは内心あきれつつも、その屈託のない明るさが、陛下がじきじきに買い物をお願いするくらいの信頼を勝ち得ているのかな、とまだトリオ騎士になって日の浅いハミルには、彼のその熱さに圧倒されつつも、どこか見習わなくてはいけないのかな、と考えを巡らせてしまった。
それが良くなかった。
次の瞬間、先輩はコーラスの部屋に入っていき、その襖を開けようとするのを全力で止めなくてはならなくなったのだった。
「センパイ、待ってください!」
思わず先輩の後ろ首を掴んでしまったのが非常に気まずくなり、彼はすぐ様その手を離したけれども、ハミルはとにかくセンパイが次の動作に移るのを止められた事をひとまず安堵するのだった。
「何だよ、ハミル。」
振り返りざまの先輩の様子が少し不機嫌なのはやむを得ないと思いつつ、ハミルは本来の業務を果たすべく、口を開いた。
「陛下は今、1時間ほど人を入れないで欲しい、とおっしゃっているんです。」
先輩は意外そうな表情を浮かべて、ハミルのひょろりとして頼りなげだが、必死の形相を見据えたのだった。
「ハミル、・・・あと何分くらいなんだ?陛下はおひとりなのか?」
ハミルは慌てて腕時計を確認しつつ、先輩の言われるままに答えてしまった。
「あと40分くらいです・・・ウリクル様もご一緒です。」
「ウリクル様と・・・?」
次の瞬間、先輩はふと我に帰ったのか、茫然と立ち尽くすハミルを引っ張るようにして入り口の外へと飛び出し、そしてハミルにはそれまで見せた事のないような真剣な表情で、彼にこう切り出すのだった。
「おい、何でそんな馬鹿正直に答えちまうんだ。ルーパス様とか、何より王妃様がこの部屋にやってきたら、お前どうするんだよ!」

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