ささやかな最大権力(1)


ある平日の午後、お昼と呼ぶには少し遅すぎる頃合だった。
紫外線が突き刺すようではあったけれども、眩しく深い群青色の空と手入れの行き届いた庭の木々、高原特有の爽やかな風が、ひんやりとした畳のみどりと共に、この部屋に帰って来た者をいつものように優しく受け入れてくれていた。

コーラス3世が、長かった外遊が終わって、広大なコーラス城の、その中でも最上層にある平屋建の、だだっ広い自分の部屋に入ることを許されたのは・・・もう10日ぶりくらいだろうか。とにかくここに戻ってきたのは、とても久しぶりのような気がしていた。
世話役の者に汗をぬぐってもらいつつ、モスグリーンの儀典服から、日常を過ごす萌黄色のちぢみの和服に替えてもらった。それ自体はいつもと同じ光景だ。
しかし一人になって床の間の座卓に手をつくと、ふと、普段なら当たり前で気にも留めなかった肩の重み・・・冠や宝石類の硬さ、マントの厚みから、何より重大な仕事の数々から解放されたのだという安堵の様な気分が、自分の中を流れていくのを彼は感じ取っていた。
ビリジアンの王冠を被った自分、それが僕の日常の姿であり、僕のあるべき姿なのに。
コーラスは何故その様な事を思ったのか、ひょっとして疲れているのかな、と思いを断ち切るように結論付けて、ひとり苦笑した。
今ならば、この位の事は許されるだろう。
今ならば。今ここには、誰もいないから。

とはいえ晩も外交日程で某国大使との食事会が控えている。夕方からまた慌しくなるだろう。
今のうちの僅かな自由時間、何をしておこうか・・・いっその事、一眠りしたいような誘惑が頭をちらつくのを振り切りたくて、コーラスはあれこれ大急ぎで考えを巡らせた。
調べものをするのも良いかな、とも思ったけれども・・・そうだ、部下に頼んでいたあれ、もうこっちに届いているかな?
そしてさっき挨拶を交わした今日の自室のの門番が、まだ役に就いて日の浅そうな若者だった事を思い出すと、コーラスは床の間から部屋の出口へとゆっくりと歩みだした。
先程までの苦笑いは、隠し事を秘めた含み笑いに変化しつつ。

「ちょっとお願いがあるんだ、良いかな。」
部屋の入り口前に立つ一人の門番に話しかけたコーラスは、彼が自分の声に反応して緊張の色を隠せないのを、都合良く立ち回り出来る嬉しさと若いんだな、という率直なおかしさとで見守りつつ、彼にあることを伝えるのだった。
「今から一時間ほど、人を入れないでくれるかな。それと、ウリクルを呼んで来てくれないか。モーターヘッド・ハンガーにいるはずだから。」



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