降り積もる祝福(4)


「変な事はできませんね。」
と言う昔のウリクルの声がリフレインして、自分の意識に語りかけてきた。
今僕のしている事は、まさにそれに当たってしまうのではないのだろうか。
あの時と同じ白亜のテラスは、歓声どころか無音のしじまにあって、真夜中が作り出す闇の中にある。近くの非常灯が白い壁をうっすらと蒼い光をぼんやり照らし、遠くから更に向こうの市街へと向けてライトアップされる白い光の筋だけが、今自分が見えるものの全てだろう。
いや、それは正確ではなくて、もっと近くに…というか僕の傍に、ウリクルがいる。
彼女の、アメジスト色のクリスタルと、自分にもたれかかっている漆黒の髪とが、その白い肌と共に見えた、というのが正解だろうか。
この日は一日中天候も良く、本来ならば満天の星がこのテラスの上で煌きを放っている筈なのだけど、柱の影にいる僕たちからは、城の天井のほんの少しある隙間から見えるだけで、だからといって眺望のためにこれ以上動く事は許されていなかった。
コソコソと隠れて彼女と会っている。それこそ「変な事」に違いない。
しかし、今の僕には、─いつもいつでも誰からも好意と、出来れば敬意を持ってもらえるよう日々努めてはいる。なかなかそう上手くは行かないけど─そんな日常から離れて、一番自分らしいと呼べるのはこの時だけだった。
僕を愛してくれている君と過ごす、ほんのちょっとだけの自由。
秘密を保持する為ならば星空は見えなくても良し。
まぁそれ以前に、彼女と一緒にいられるのなら、そんな事はどうでも良い事だったけれども。

「…あの時、後でここの掃除をするのが大変だったと聞きました。確かに凄かったですものね。よくくしゃみをしなかったものだと思うくらい。」
もっと覗き込むつもりで顔を近づけようとしないと表情は良く分からなかったけれど、ウリクルの声からは笑いが含まれているように感じられた。
彼女の左肩に自分の手を回しているので、腕にはウリクルがそこにいる、と伝わってくる温かさを感じるものの、ただでさえ表情が解かり難いのに加えて、頭一つ以上違ってしまった身長差で、この姿勢からは君が顔を上げてもらわないと一切の表情が見えなくなってしまっている、今は彼女の声が弾んでいるだけに余計にもどかしい。
今日は外で話がしたいな、と僕が提案したのはひょっとしたら失敗だったのかも知れない、と思ったけれど、それはもう後の祭りだった。

「ほら、何か星々が降って来たみたいじゃありませんでしたか?あの時の紙吹雪。」
突然ウリクルが顔を見上げて、天井から見える隙間の星空を指差し、そして得意げな思いつきをした子供みたいな、キラキラとした微笑を僕に見せた。

そのとき、自分の中でも、何かがふっとひらめいたのだった。


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