~へっぽこからのお知らせ~

◯配布物Fughetta.シリーズ3冊について。バックナンバーに関してはお申込みを締め切らせていただきました。今迄お申し込み頂いた皆様どうもありがとうございました。
最新号3に限り、年末まで郵送も受け付けます。お問い合わせフォームにてご住所、お名前、お誕生日(要年齢確認のため)お知らせくだささい。
※尚配布物に記載したコラムについてはブログ公開予定はございませんのでよろしくお願いいたします。

ようこそ女王陛下


「嫌だ嫌だ!どうして私が”女王陛下”なんて呼ばれなきゃいけないの?」
年頃の若い女性が、隣を歩く青年に向かって顔を上げ、顔を赤くして怒り心頭に叫んでいる。
白地に朱色のラインの入ったドレスに、自分の頭と同じくらいの大きさの制帽を身につけた彼女は、スラリとした細身の身体に似合ってはいたものの、どこかお仕着せ感の漂う風情をしていた。
ボブカットに切り揃えられた前髪から、形の良い眉が釣りあがっているのが、見えなくても彼には容易に想像できた。
女性より頭一つ高い彼は、不意に彼女が翻って、自分の側から立ち去ろうとしているのを目の当たりにして、その白い背中に向かってこう語りかけた。

「ディジナ…それは仕方がないんじゃないの。だって君しかいないんだし。君がマイスナー家の当主なんだよ。」
ポツリポツリと、しかし真っ直ぐな言葉で彼女に向かって話しかけた彼は、そののんびりとした口調とは裏腹に、ディジナ、ともう一度彼女の名を呼んで、離れていこうとする手と肩を素早く掴んで自分の下に引き寄せた。
そんな彼の表情に怒りや焦燥は見られない。むしろ優しく微笑んで顔をディジナに近づけ、こう彼女を諭した。
「しかも"マイスナー女王"と呼ばれるのはほんの一瞬だけじゃないか。すぐに僕のお嫁さんになるのに。」

…さっきまでのディジナの怒りはどこへやら、青年の整った顔と空色の瞳がが至近距離で近づいてきたので、彼女は恥ずかしくなって視線をそらし、自分の肩を掴む彼の手を見つめた。
いつもなら何か一言、反撃を彼に加えたいのに、今日は何故かそれも出来そうにもない。着慣れないドレスのせいだろうか。
ディジナを抱え込んだ青年もまた、モスグリーンのマントと制帽で正装をしていており、いつもの見慣れた格好ではない。
毎日毎日が、戦闘と移動を繰り返す日々、それらが全てが終わったばかりの二人には、お互いの姿だけでなくあらゆる事態が違和感だらけだった。
いやしかし、これからはお互い、この姿が自分たちの日々の暮らしとなるのだ。

青年の名前は、コーラス・シックス。
戦火から復興したばかりのコーラス王朝の王位継承者。
ついこの間までは、ラベル・ジューダという別の名前だったのに。
そんなディジナ自身も、最近まで自分が女王になってしまうだなんて考えも及ばなかった。
彼女もまた、同じコーラス王朝・マイスナー王家の忘れ形見。
そんなご大層な身分だったなんて、今でも信じられない。
ラベルのほうは、自分が一体何者なのか、以前からうっすらと分かっていたみたいだけど…

そして彼らは、これから自分たちの婚姻を城のテラスで待ち構えている国民に報告する為、広大だがまだ若木ばかりの庭を移動している最中だった。
この草木が健やかに成長するように、自分たちもその役目をやっていけるのだろうか。
余りに多くのものが失われた戦いの日々。歯を食いしばるような毎日からやっと手に入れた平和はとてもかけがえのないものだけども、未来の代表者になってしまった二人にのしかかる国民の期待は、あまりに大きい。
コーラスの日に焼けた大きな手を見つめながら、ふと、これからの事に考えを巡らせてしまったディジナだった。

「ディジナ、行こう。テラスで皆が待っているよ。」
ディジナからの反撃を待ち受けていたコーラスだったけれども、いつものように勝負を挑んでこないのをやや不可思議に思いつつ、時間の事もあるのでディジナに決断を促した。
しかし同時に、いやに大人しくしおらしく見える彼女の姿を面白おかしく感じた彼は、名前を呼びつつ軽く肩を叩いて、ディジナが顔を上げるのを待った。
そして表情が見えたところを狙って、更に顔を近づけ、これからあるセレモニーの練習のような、触れるだけのキスをした。
「!?…んもう!」
彼が起こした突然の悪戯に、顔を赤くしつつむくれようとするディジナだったけれど、コーラスはまるで意に介さず彼女に向かってフフ、と笑いかけた。
「大変だけど、これからも宜しく、ディジナ。」
そんなコーラスに半ば降参した状態でディジナも笑い、二人はまた並んで、テラスに向かってゆっくりと庭を歩き出した。
お互いの右手と左手は、しっかりと繋がれて。

「…ねぇラベル、いや、もうラベルと呼んでは、まずいんだっけ」
ディジナは暮れかかった空の下、コーラスの以前の名前を呼んだ。
「何ですか、女王陛下。」
「その呼び方はやめて。」
ニコリとしつつディジナをからかおうとするコーラスに、ピシャリと一言でたしなめたあと、自分の話を続けた。
「昨日夢を見たの。」
「あなたに良く似た人が出てきたのよ。」
ディジナの言葉に少々驚いて、その空色の瞳は黒い瞳を見つめた。
「僕じゃないの?」
「ええ。だって貴方は私の隣にいたし、その人の隣にも、純白のドレスを着た、もっと綺麗なヒトがいたわ。」
「そして私たちにおめでとう、だって。」

ディジナの不思議な夢の話しを聞きながら、コーラスはディジナの予想とは別の疑問を口にした。
「その人達が誰だか知らないけど、君が一番綺麗じゃないか。」
お世辞にしても下手なことを言うと、しかめ面をして立ち止まり、コーラスを見つめた。
「おやおや、そんな顔をしちゃ駄目だよ。ディジナ。でも本当だよ。君が一番綺麗。笑ってくれればね。」
そして立ち止まったディジナを抱き寄せて、もう一度、キスをした。

「でもそれって誰なんだろう、僕たちのご先祖様かな?やっぱりここで結婚式を挙げたのかな…。」
コーラスとディジナの二人はまた歩き出しつつ、彼女の夢の話しを、微笑みながら語り合うのだった。




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